月山前衛 角川・浄ノ滝ゴルジュ
2025.7.6
まだまだ昨年の沢記録が残っているが、先日の記録を書いておきたいと思った。記録は書きたい時に書くのが良い。
新庄市と鶴岡市に挟まれた最上川沿の小さな農村である戸沢村。
ここは俳人松尾芭蕉ゆかりの地として芭蕉の足跡を辿る最上川の船下りや朝鮮との交流が盛んだったことで知られる小さな小さな村。あと謎に国民健康保険発祥の地という肩書きもある(…?)
この戸沢村は自分が仙台に転勤してきてからすぐに道路事業の仕事で縁がある。昨年は豪雨災害に見舞われた際にも国道47号復旧工事の一環を担って経験もある。ポムチムにとってここ戸沢村はいわばちょっとしたホーム感のある地ということ。
戸沢村の中心部である古口には、角川という最上川の支川が流れている。角川は仕事で毎日見ていたし、幾度も河川内で調査もしたことがあり、とても慣れ親しんだ川だ。
この角川の上流には東北で最大級のゴルジュがあることはあまり知られていない。そのゴルジュは浄ノ滝と呼ばれていて、かつて月山における山岳信仰が最盛だった時期には修験者がこの滝で身を清めて(浄化して)出羽三山へ登ったのだという。
そんな浄ノ滝は、両岸が200m近い稀に見る大側壁に囲まれ、畏怖の念を抱かずにはいられない。信仰の対象だったのも頷ける大変神聖な場所である。しかし、浄ノ滝として見えている範囲は25m程度であり、その大部分は高く聳える側壁に守られて簡単に見ることは叶わない。この側壁の内部に秘められた部分こそが浄ノ滝ゴルジュとよばれ、東北で最大級のゴルジュなのである。
浄ノ滝ゴルジュは2011年に俺は沢ヤだ!の成瀬さんと野良犬通信の青島さんが初登している。
以前、四国のゴルジュクラブことタスクさんと若くてアグレッシブな紀伊半島彷徨クラブのリュウスケくんと交流した時に、この浄ノ滝ゴルジュの存在を語るとこれは!食いついてもらい、いつか一緒に行こうという計画が浮上した。
結局その計画の直前に昨年の豪雨災害が起きてしまい計画は流れた。そしてそのすぐ後にタスクさんは有名な方々と浄ノ滝に行って、これまで側壁登攀の巻に終始していた浄ノ滝ゴルジュの水線突破に成功した記録を残した。
そんなことがありつつ、いつかは自分も行ってみたいなと思いながらも、自分一人では到底太刀打ちできないようなゴルジュであるため固唾を飲むしかなかった。
がすぐ近くに最強沢ヤはゴロゴロいる 天気予報を見てて晴れそうなので、全く計画性なしに明日、浄ノ滝行こうよと誘って二つ返事の鬼KC 頼れる最強のパートナーであり真のSAWAGURUI。彼も10年以上浄ノ滝ゴルジュを狙っていたスナイパーだ。
そしてハイキングでチングルマを見に行くと一点張りだったが、内心どうしようもないムラムラに襲われていた団栗林権蔵教授。奇しくもムラムラが絶頂のタイミングでラインをしてしまったようで、まるでこうなることを予期していたかのような既読の速さでレスポンス。ラインを送った刹那、2秒後に
「わかりました。何時どこ集合ですか?」
なんだ、はなからゴルジュ行く気しかないじゃないか。
浄ノ滝へ続く林道は途中で崩壊しているとくずみんのブログで知っていた。ちょっと荒れてきたところでKCのハスラーで行けるところまで入ろうとすると、なんとゴリ押しで林道終点まで入れてしまった。
これで大分アプローチは短縮できた。遊歩道はやや荒れているものの辿れるレベルで、途中から沢をてくてく歩くと30分ほどでそれは見えてきた。
天を衝くような鋭い側壁、その割れ目から艶かしく、浄ノ滝は注いでいる。こんな表現、不浄でしかない。
これまでみたことがないような風格を持っていて、これからあの中に入ると思うと身震いするほどだ。
まずは浄ノ滝F1 25m傾斜は緩く右壁にホールドがたくさんあるので難しくはないが、乾いている岩も嫌にヌメる。このヌメりの正体はよくわからなかったが、全然まとまった雨が降らないので、雪渓のカスや泥が洗われずに残っているためだろうと思う。
F1のすぐ上にあるF2もそのまま真横の灌木から超える。この先でゴルジュは右に屈曲し、いよいよ内院謁見。
…なんじゃこりゃ〜と声が出てしまうほどの超ゴルジュ。両岸とも凄まじいほどの高さで聳え、正面には明らかに困難と一目でわかる3段のF3が阻んでいる。
6mの最下段もヌメりがひどく、お助けをもらったりして進む。 そしてF3の中枢である中段15m滝と相まみえる。
その迫力にポムチムは圧倒されていたが、KCと権蔵教授は冷静にオブザベ。ド水線を孥シャワーで登れるという。
!? 信じられなかったが、KCは行く気満々。 権蔵教授は最悪、左壁をフリーで登れるとも仰る。!?
ていうかロープもつけずに登ろうとしていた。
この人らは住む世界が違うな…とは言ってもここは彼らに託すしかない。KCは滝身に躊躇なく突っ込み。苦戦するそぶりもなく登ってしまった。ヤバスンギ
フィックスでポムチムも続くが、滝裏は狭くて大変。抜けも突っ張りが怖くて、とてもリードでは登れない。
KCやべぇ… そしてこの滝の水線突破はKCが初登だろう。初っ端からエグスンギ。
中段は直接上段につながっていて、スペースはわずかしかない。しんがりの権蔵さんも上がってきてみんなでグータッチ。KCナイスウルトラリード!
上段はぱっと見それほど難しそうじゃない。権蔵教授がそのままロープを引く。ポムチムも続くが、めちゃくちゃ狭くてザックと腹肉がつっかえまくる! モジモジ全然進まなくて心配をかけてしまう、仕舞いにはザックを荷揚げしてもらいなんとか脱出。 むっずぃ〜
間髪入れず、F4 これも最下段が絶望的に見え、柱状節理を断ち割る恐ろしいゴルジュ滝だ。
順番的にはポムチムリードだが、萎縮してしまい、頼れるアニキの権蔵教授にお願いする。
権蔵教授はマジかよ行きたくね〜と駄々を捏ねていたが、気がつくと滝の上にいた。どうやら時空間忍術が使えるようだ。
F4最下段は滝裏を潜って登り、中段の樋状に飛び移るように登っていく。中段は減水気味にもかかわらずかなりの水圧だった。
振り返るといよいよ魔境の中枢と言った感じの景色…
KCも登ってきてF4終了かと思いきや、目の前には簡単に登れそうな5m滝。
なんの気なく乾いた左壁に取り付くと例のヌメヌメが酷い上に、あららホールドが少ない! この滝も悪いの!?
あれこれするもどれも打開策につながらず、まさかの展開に絶望感が漂う。
そんな中、ポムチムが小指の太さもない根っこを摘みながらモジモジしていると一歩、また一歩と進むことに成功。ここでロープを投げてもらい、ハーケンを叩き込む。あれ?なんとかなりそう
その後もバランスで進み上部の灌木に飛びつきなんとか登り切った。 少しはポムチムも役に立てて安堵した。
ここでハーケンとスリング一対を紛失。 誰か拾ったら使ってください。
まだまだゴルジュは続く、今度は狭く抉れたゴルジュだ。 興奮のあまり、奇声しか発することができなくなってしまったKCが加速度的なスピードで攻めに攻める。轟音響く中、KCの絶叫が大ゴルジュにこだまする。オペラ歌手とか向いてるかも。
こうなったら誰も奴を止められない。もう野生本能剥き出しのKCに任すほかなく、後続はお助けに頼ってこれを登る。
いよいよゴルジュも緩み、さっきまで見上げていた側壁は今、眼下にある。悪いゴルジュから一転して快適な遡行が続くかと思いきや、すぐに登れそうにないF10(?)これは冷静に登れないため、ちょっと戻って、右岸の灌木まで上がって小さく巻いた。
先程まで小雨混じりの曇りだったが、ここら辺で晴れてきて嬉しい限り。巻いた先にある8m滝は右壁から各々突破。ようやく後半戦か。
沢は大きく開けて、まるで越後の沢ような渓相。 短い区間にこれほど密に詰まって完成度の高い沢は経験がない! 美しい釜を持ったナメ滝を超えるとフィナーレに相応しい3段45mスラブ滝のお出ましだ!
ぶったまげ〜! 大天使降臨したんちゃう?ってレベルに美しいスラブ滝じゃないか。
滝ハナ沢の40mスラブ滝に比肩する造形美! この滝こそ浄ノ滝ゴルジュの真髄だ
広大な滝前の空間で一服をキメる。先のゴルジュでは凄まじいプレッシャーに潰されそうだったけど今では夢見心地 でも、この滝も大変なのだ・・
一見簡単に登れそうだけど上部のナメは両サイドとも細かくて傾斜も強い。 ここでは権蔵教授が再び火を吹いた。左壁スラブで15%は死亡リスクのあるトラバースに成功。KCも権蔵先生もONIすぎる。
ロープをフィックスしてもらい、ポムチムはユマールで上がっていくけど、このスラブは件のヌメりが一層酷くて全くグリップしない。 一体このヌメりはなんなんだ!
ラストに2段の残りがあるが、ここまでくれば安全地帯。権蔵教授が勝利の雄叫びを上げる。
残りの2段を左壁から簡単に登るといよいよ浄ノ滝は幕を閉じた。 普段はしない記念写真なんか撮ったりして喜びを分かち合った。 正直涙が出ちまうほど嬉しかった。
滝上のナメを進むと5m滝がまだいた。ここからはよくある東北の沢って感じの雰囲気。
2条の10m滝で右から出会う枝沢を詰めていく。このあたりのルートはゴルジュクラブの記録を参考にさせていただいた。
枝沢は水が冷たくって美味い。尾根が近づいても水量を保っていて、不思議だった。
尾根を乗越し、北側の沢を下降する。泥がめっちゃ詰まっていて不快だったが、上部は特に何もなく下降しやすい沢だった。 1箇所大ナメ滝があり、その最後は立っているため懸垂下降で降った。ここに何者かの足跡があり、まさかゴルジャー!?と思ったが、驚いたことにこんな藪山でも入る人はいるようだ。すると間もなく、鹿ノ入沢との出合いに戻ってきた。
帰りは堰堤の上まで歩いて行き、無事に帰還した。
浄ノ滝ゴルジュの中は亜空間となっており、次から次へと厳しい滝が連続くる。 突破にはKCと権蔵教授がめちゃくちゃ頑張ってくれた!感謝しかない! そしてポムチムのこれまでの沢経験では別格の難度だった。
生命の危機を感じる場面はそうなかったが、現れるどの滝も強度が高く、4級沢で一度あるかないかの難所がぶっ通しで続くイメージ。それでいて景色が素晴らしく、非現実的な大ゴルジュ景観が終始続く。これは間違いなく日本有数のゴルジュに違いない!
そして〆のスラブ大滝の美しさには心打たれた。
みんなゴルジュを経て浄化し無事昇天
浄の滝ゴルジュは一生の記憶に残る、本当に素晴らしい沢でした。
KC、権蔵先生、本当にありがとうございました!