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2023-08-20

船形山 横川・矢櫃沢

2023.8.20

横川・矢櫃沢は船形連峰の一座・後白髪山を源頭とする沢で、同じ山域では広く知られる癒し系の笹木沢とは対照的に知名度は低いが、宮城の沢登り愛好家からは悪渓としてよく知られた沢である。

東北の山(奥羽山脈・北上山地)を流れる沢は概して穏やかな渓相の沢が多いのだが、中には厳しい貌を持った沢もあり矢櫃沢はその代表的な沢の一つだ。

宮城には、二口に磐司沢という全国レベルでも極めて特殊な難しい沢があるが、それ以外では矢櫃沢が最難の渓谷とする説もある。嫋やかで豊かな森が広がる船形にあって最難を冠する矢櫃沢…果たしてどんな沢なのか

お盆休みも終わり、仕事合間に天気予報を見ると週末は午後から雷雨の見込み。午前中は天気が持ちそうなので、葛見さわさんに矢櫃沢を打診し即OK、そして4月の沢初めエシコ沢でご一緒した団栗林権蔵さん(はでさん)にも声をかけてもらって、3人PTで矢櫃沢に挑むことになった。

参考記録:ソロで生きる 白峰会

矢櫃沢は沢自体の難度も高いのだが、それと同等以上に悩ましいのが沢までのアプローチだ。

7〜8年前までは、アプローチの起点となっていた後白髪山の「横川コース」登山口まで車で入れたようなのだが、近年は、定義林道そのものが起点から通行止めになってしまっている。

この辺の林道情報攻略も含めての矢櫃沢なので、現場状況をよく吟味してアプローチを選択したい。

結果的には徒歩1.5時間程度のアプローチとなったが、「横川コース」から先の九十九折のところは、すぐ北側の沢を下降すると良いと思う。我々は途中からそれに気がついたが、それでも結構短縮されたと思う。

支流の最後は懸垂下降
堰堤は左岸巻き
序盤は癒しの渓相

下降に用いた沢は最後は8mぐらいのクライムダウン不能なナメ滝で矢櫃沢に出合うため、懸垂下降で降り立った。

矢櫃沢自体は昨日の雷雨の影響はあまりなく、水は多少多いぐらいで透き通ったクリアな水質。すぐにトイ状のナメが現れて、その先には大きめの堰堤が立つ。これは左岸巻きで越えるとしばらくは平凡で癒しの様子。

なかなか魚影が濃くて、流石は人跡稀な奥地の沢と言った感じ。 途中、木をつかんだら凄まじく嫌なヌメっとした感触を感じて、なんだと思ったら巨大な山ナメクジを掴んでいた。 その後も25cmくらいある山ナメクジが現れてナメクジが大嫌いなポムチムの心中は穏やかではない。

それっぽい渓相になってきた
ゴルジュ入り口の滝
ツッパリで超えていく

ナメクジの粘液は洗ってもなかなか落ちない上に、感触が常に脳裏に焼きつき、しばらく嫌な気持ちだった。

徐々に側壁が切り立ち始めると、ゴルジュ入り口となる4m滝 その先は水路状でありツッパリで進む。

4mナメ滝
矢櫃滝下段 8m
矢櫃滝上段 5m

周囲をぐるりと囲む側壁にプレッシャーを感じながら進むと、第一の関門「矢櫃滝」 

この沢は、次々と現れる難所の攻略を楽しむことに特化している沢なので、詳しく記すことは控えるが。矢櫃滝の上段はこの日のコンディションでは厳しく、ハンマー投げしたりと色々頑張ったが厳しかった。

予報よりも早くに天気も悪くなってきて、早々に諦めかけて葛見さわさんとポムチムは温泉ムードになっていた。が、団栗林権蔵さんが右壁からの渾身のトライで突破してしまい唖然。これはすごいものを見てしまった…

これはもう頑張るしかないなと、完全に消沈していたモチベに火がつき葛見さわさんとポムチムが後に続く。

洞窟状の釜伏の滝
すごい造形の滝だ
セカンド葛見さわさん 泳いで

2、3の滝を超えて進むと、洞窟状に抉られた先に轟音をこだまさせる第二の関門「釜伏の滝」

この釜伏の滝は矢櫃沢のメインディッシュであり、その雰囲気は強烈そのもの。洞窟状の淵に入り込み正面から見るていると頭上をコウモリが飛び交うなど尋常じゃない滝だ笑

ここは、団栗林権蔵さんが切り拓いた道を継ぎたいポムチムがリードを願い出て、珍しくギアをぶら下げて挑む。泳いで取り付き、登りきった時は久々にガッツポーズが自然と出てしまった。

離陸中
団栗林さんも余裕の登攀
「まわり滝群」支流の滝

終了点にはリングボルトがあったが、サビサビのため使わなかった。 後続の葛見さわさん、団栗林権蔵さんも危うげなく登り終え、ほっ!と気が緩む。

釜伏の滝のすぐ上は2本の支流と本流に計3本の15m級滝がかかる特異な空間で「まわり滝群」と呼ばれているらしい。

本流の滝
まわり滝群は続く
まわり滝群 最後の滝

まわり滝群の本流は連瀑となっていて小難しい滝が3つ連続する。とはいえ、これまでの2つの滝と比べると容易なため問題なく進んだ。

ナメが出て完全に穏やか
ナメにあるポットホールすごい深い
横川大滝手前のゴルジュ

まわり滝群の先は少しの滝を越えると、森が近くなり至って穏やかな沢と化す。

東北情緒あふれるナメや2m以上の水深があるポットホールに憩う。

そんな癒しの時間は長く続かず、最後の難関「横川大滝」とその手前のゴルジュにぶち当たる。

横川大滝と下段の滝
横川大滝の御姿
完全に癒し系へ

小ゴルジュは特に問題ないが、大滝の下段と言うか前衛滝は7m程度の高さがあるためロープを出す。

ここは日頃ボルダリングで鍛えまくっている葛見さわさんの出番。逆層を落ち着いて処理し抜けていた。

横川大滝上段は35mの大滝で滝前の空間は狭く、飛沫が凄まじい。 左右の壁共にかつて登られたらしいが、どう見ても一般的に登攀される滝ではないため、滝右にあるルンゼ状から高巻くことにする。

だがしかしこのルンゼが落石が半端ない上に最悪に悪い…

5m程度ルンゼ登ったところで上の登路を見上げると到底ノーロープでは厳しいように見えて、ロープを結んで投げビレイしてもらう。普段はあんまり頑張らないポムチムだが、ここは超超〜頑張って登りきり、フィックスして後続を迎えた。

横川大滝のルンゼは、難関とされていた釜伏の滝よりもずっとずっと難しかった。

ここを超えてしまえばもう、沢は完全に落ち着いてナメや小滝を愛でながら進む。

Co1140で出合う枝沢を詰める
キンキンの水が冷たい
雷鳴が響く中下山した

横川大滝からしばらく進んだCo1140で右岸から出合う枝沢を詰めて後白髪山の登山道に抜けようと提案する。その枝沢はキンキンに冷えた湧き水が流れているようで、苔むした滝で出合っている。

枝沢にもいくつかの滝があり、それなりに楽しく詰めるが周囲に雷鳴が響くようになりゆっくりはしていられないようだ。

最後は藪漕ぎになったがそんなに長い距離でもなく許容範囲内だった。抜けた登山道(後白髪山〜船形山縦走路)はほぼ藪に還りつつある。 山頂についても休憩もそこそこに雷に追いつかれる前に下山しなくては。

下山は2パターンあり、後白髪山コースでだらだら下山するか、横川コースで一気に下山するかだが横川コースは廃道化が進んでいることが想定された。しかし、いざ分岐に来てみると意外と横川コースも明瞭に続いていそうだったのでこちらで下山することとした。

横川コースは概ね登山道をトレースできたが、登山口に近づくに連れて不明瞭になり、最後は思い切り登山道を外しながら藪漕ぎで林道に戻った。あとはまた、長い林道歩きを1時間かけて戻って無事に車まで戻ってきた。

結局最後まで雷雨には見舞われることはなく良かった。

・所感・

矢櫃沢は宮城県最難の説があるだけあって、多くの難関が待ち受ける険しい沢でした。矢櫃滝の上段で行き詰まった中、会心の登攀を見せてくれた団栗林権蔵さんに感謝です! 

アプローチ・下山共に非常に悪いですが、日帰りの沢にして素晴らしいボリュームを持った沢で、東北では稀有な内容の沢だと思います。東北住まいの沢屋さんには太鼓判

ご一緒してくださった、団栗林権蔵さん葛見さわさんありがとうございました! また楽しいところ行きましょう

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