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2019-08-17

大蛇尾川 西俣 事故中退

2019.8.17、18

水の青さや輝くエメラルドグリーン それらの点に関しては関東で際立つ渓谷はとても少ないかもしれない。

水の青さ、美渓…そういった視点で渓谷を考えたとき、男鹿山塊随一の大渓谷「大蛇尾川 西俣」は関東屈指の渓谷だという。

いくつもの記録を見ても例外なくとにかく水がきれい!と賞賛の嵐である。

青いならいくしかない、台風接近で2泊の周回案から1泊の西俣散策に縮小しての活動だったが、思わぬ事態で活動を終えることとなった。

思えば、必然だったのかもしれないし、結果としては何事もなかったので僥倖だったのかもしれない。

事前に最寄のアメダスで降水量を調べていると、北関東はかなりの累積雨量。
五十里では3日で200mm超えている…ん〜どうだろうか。

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強烈なダートを倒木がふさぎ、予定より大分手前から林道を歩く。巡視路の橋は壊れているものが多い。

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1.5時間ほど歩いただろうか、ようやく取水堰へ到着した。

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予想はしていたものの、すごい水量だ。渡渉すら場所を選ぶような強い流れ。

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水量は多いが濁りは少なく、どことなく敗退するには早計な気がしてならなか
った。

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「いけるところまでいきましょう」と声をかけ、まったく明確なイメージのないまま歩み
を進めた。

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ロープを出して渡渉をしたりした。

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水位は植生やコケの感じから平水より40〜50cmくらい多いようだ。

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二俣に到着。意外と順調だ。

西俣に入りしばらく進むと渓相が変化し正面は強烈な水しぶきが!ヤギ滝2段15m級に到着、増水していたが時間はおおむね予想通り。

ヤギ滝は通常、下段落ち口を渡り、上段は左壁を越えるらしいが…今の状況で渡渉はどうにもならないだろう。
結局、左岸の最近の崩壊と思われる箇所を上るとバンドがあり簡単に巻いた。

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ヤギ滝の上は綺麗な渓相、勢いよく流れる大水量は迫力がある。

すぐに記録によく見る青いつぼの5mナメ滝。なのだろうが、あまりの水量にまったくの別物と化していた。大げさに言うと通
常の10倍ほどありそうな勢い。青の領域も気泡が多くを占め残念というほかない。

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右から簡単に超えると連続するナメと釜、ここは平水であればとても美しい場所なのだろう。

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しかしこのときは轟流がどんどんと流れ、癒しとは対極の状態。

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いくつかの釜を左から越えたとき、Mさんが足を滑らした。
バランスを保てず、水流に流されてゆく、すぐ下流のつぼに吸い込まれ
目で追うとなおも流されてゆく。

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我々は大声で叫ぶも返答はなく、私は左岸から下流に走って戻る。tkoさんも右岸から戻るもぬめる壁に難儀し落ちそうになっていた。

Mさんは滝を2つ落下し、2つ目の釜で渦につかまりぐるぐる巻かれていた(上写真の釜)視認できたのは赤いザックが水面からでてぐるぐるまわり、時折もがく手の指先だけが水面からでている。

私の少ない経験上、最もやばい状況が目の前で起きていた。
もはやMさんは自力での脱出は不可能だろう、瞬時にそのことは理解できた。
おそらく意識ももう希薄、ロープを投げても無駄、飛び込んで救出するしかない。

渦は右岸よりであり、私のいる左岸からは少し距離がある、空身で勢いをつけて飛び込むが一気に流されてしまう。右岸側に上陸し今度はぎりぎりまで近寄り渦に飛び込む。 すると意外と流れにつかまることもなくスムーズに近寄れ、ザックをつかみ思い切りMさんを行き上げ陸に上げた。

唇は紫で顔は青白い、思い切り顔面をたたいても反応はなかった。
ヤバイヤバイとあせりからか心音を確認することもなく、胸骨圧迫と閉ざした口をこじ開けて人工呼吸を短いスパンで繰り返す。
途中水を少し吐き出し、やがて目を開け意識の混濁も少なく会話ができた。

低体温となっていたのでお湯と食料を与え、しばらくするとほぼ回復した。

自力で下山できそうなので、今回はここで引き上げることとした。

西俣を下り、左岸の河原に幕。すっかり元気になり本当にホッとする。本当に良かった!

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翌朝は雨に降られたが、問題なく取水堰まで戻れた。

今回事故のあった釜は平水ならなんの問題もないような小さな釜だと思われます。増水時は様々なリスクが倍増するので撤退を念頭に慎重な行動を心がけるべきであった。

tkoさん、Mさんお疲れ様でした!

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◎事故当事者のMさんが事故状況を転記してほしいとのことなので以下に示します。

大蛇尾川西俣遡行中の事故について。
反省点は挙げればきりがないのですが、ひとまず
・流された後の行動
・溺れた側の完全一人称視点
に絞ってありのままの状況を振り返りました。要点は先頭にまとめましたが、本当に色んな事考えながら流されたので最後まで読んで頂けると幸いです。生存のポイントやこれはまずかっただろという点でご意見があれば是非教えて下さい。

【状況】
平水時より40cm強増水。
これ先進む?と聞くばかりで撤退をはっきり提案できず多少のモヤモヤを残しながらゴリ押しした所ツルツルの攻略が下手過ぎてバランスを崩した拍子に流され、釜の連瀑を2段落ちて横巻きの渦から出られなくなった。

【もしかしたら】
水中で平衡感覚が無くなった時はザックの浮力を信じて”背中側が水面”として行動するのが有効だったかもしれない。未検証ですが…

【ざっくり感想】
・上下左右の感覚は一瞬で無くなるため泳げる泳げないの問題ではない
・せめて水底が確認できればと薄目開けたが泡しか見えなかった
・水中でザックのバックル弛めようとしたけど不可能だった
・ザックに振り回されるのは確かだが、ザックを掴んで救出されたため仮に外せたとしても完全に棄てるのは少し考えものである
・埒が明かないと判断し息を全部飲んでもがくのを止めたのが溺死までのリミット延ばす要因の一つになった可能性がある

【詳細】
釜の連瀑とその間に短いナメが連続する場所で、すぐ脇の右岸を歩いていた。
ツルツルの岩の斜面を降りて本流に復帰しようとした時(水流まで斜距離で1m無いくらい)に滑ってバランスを崩した。川底は平らだったのでなんとか着地を試みたが水に足を取られてしまった。

Kさんがぱっと手を伸ばしてくれた。掴もうとしたが少し距離がある。飛べば届くか?いやそんな事して2人で落ちたらどうする?(Kさんはセルフを取っていない。左手で潅木掴んでたかどうかは確認できなかった)

そのまま1つ目の釜に吸い込まれ足から着水。水が重い。2回水をかいて頭から浮上。全力で1発息を吸った。

よっしゃ生きてる。

次の瞬間左足の爪先が岩に触れた。この時点で次の釜への落口まで吹っ飛ばされていた。
いやちょっと待て速すぎる。
慌てて左手も突っ込んで川底を掴もうとした。1~2秒は保持できたかな、とにかく水圧が強すぎて簡単にひっぺがされた。
そのまま多分右肩あたりを下にして落ちたと思う。

やっべぇ、全然止まらん

大きく一回転した気がした。ザックをぐわんと引かれた。やばい縦巻きだけはまずい…!とにかく体勢を立て直さないと。
引かれた方向と逆側を目指して必死で泳いだ。明るさが分かる。水面だ。息継ぎが…できない。

???水面上に出れない。
なんで??上はどっちだ?
ザックに振り回されてるのが分かった。まずこいつを外そう。ウエストのバックルをいじろうとしたが全然うまく行かない。くっそ無理か。となれば次は…
浮いたと思ったタイミングで息継ぎしてみたら泡と水だった。目を開けたら視界が真っ白だった。

うっそだろ…今何段落ちた?どれくらい流された?どちらにせよあのスピードで流れてたら上にいる2人は追い付けない。なんとかしないと…!

仰向けで流されてる気がしたので何回か上へ向かってみたがどうやっても水から出れない。
ダメだ埒が明かん、いったん落ち着け酸素が勿体無い。そういや流れに身を任せたら渦から放り出された話が外道クライマーに載ってたな。ここは釜の連瀑帯、次の釜に放り出される前に絶対浅瀬になるはずだ。

残りの息を全部飲んでグッと噛み締め舌と口の天井は密着させた。逆に体は脱力させた。意識だけは飛ばすな耐えろ。水の音が響くのだけ聞こえた。

……あー、全然状況が変わらん…

まじか、これダメなやつでは?
くっそ、これで終わり…?
一瞬だった、本当に呆気ない。
先月から海外赴任中の彼氏にはなんて言おう。ごめんなさい。悪いことしたな…
お盆前にTさん(会社の先輩)が「水の事故多いから気を付けてよ」みたいな事言ってたっけ。すんません、先輩がぶっ立てたフラグ通りになるかもしれません。

いや、そもそもこの沢に来たこと自体が夢で起きたらオフトンなんじゃね?

だって今、苦しくないし。

外の景色が見えた気がした。必死に何か喋る声が聞こえる。
あーあ、助かりた過ぎてついぞ幻覚見始めたわ。本当にすみません。息も吸える。あれ、でもこんな吸ってたら現実は水飲みまくってるんじゃ?

Sさん「低体温低体温!!!」

へ?

意味の分かる単語が聞こえた。
2~3回瞬きしたらちゃんと見えた。足元にSさん、頭の方にKさんがいて体を擦ってくれていた。その感覚が合わさって初めて陸に引き上げられている状況が分かった。

Kさん「ゆーっくり息吸おう」

助かったんだ。息していいんだ。
空がさっきより暗い気がする。
結構時間経っちゃったのかな。

「すみません」
そう言おうとしたが体は動かないし声も出ない。微妙に口がパクパクしただけ。まじで眼球しか動かない。完全にログオフしとるやんけ。お詫びと、お礼を伝えたい。あと状況を知りたい。

しばらくして起き上がれたので話を聞いてびっくりしたのが
・ずいぶん下まで流されたと思ってたが2段目の横巻きに延々と巻かれてただけだった
・時間にして1分ちょいの出来事
・終盤は仰向けで流されてる感覚だったが実際は逆で、上を目指して必死こいて下に向かって泳いでた事になる
・5回心マ×2セット目で反応があった

Sさんがすぐに「折れてない?」と確認してくれた。大丈夫、動ける。
食べやすいように封を開けて渡してくれた1本満足バーとエナジーゼリーが無味無臭だった。感覚が戻ってきて初めて”寒い”と気付いた。
お湯沸かしてもいいですか?

もうしばらくその場に停滞してもらう事になった。
「よく濁流でメガネ落ちなかったねー笑」などと笑い話も混ぜてもらって少し安心した。
幕営地までの帰路に着き、ザック背負って、ジャケットのフード被って歩いてたら体が暖まってきた。
懸垂してる時のロープがやけに暖かかった。

焚き火の準備とタープ設営をして初日の行程は終了。
感謝と申し訳なさと本当にやってはいけないミスをした事でお通夜モードになってしまった。この2人がいなかったら確実に死んでた。流された後でどうにかしようなんて甘かった。結果としては、ほんの1~2分の間に無数の選択肢があってそれら全てで当りくじを引く事ができて全員無事で今焚き火に当たって酒を飲んでいる。沢で半端な事やったら死ぬんだとよく分かった。

翌日は帰るだけの行程。相変わらず水は多いが昨日よりは落ち着いたような。
途中で寄り道させてもらってイワナが釣れた。でかいカエルがホワイトウォーターの激流を流れて行った。あいつは大丈夫だろうか。

今となっては、「あの時こうしていればどうなってただろうか」という案はいくらでも出て来ます。貴重な経験と言ってしまえばその通りですが、これをどう生かすかはっきりさせないと次は行けない、同じミスしたらきっと”次”は無い、と身に染みて実感しました。まずは予防を最優先として、落ちてしまった後でも最善を尽くせるように今回の件を糧にできたらと思います。
SさんKさんご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございました。

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