下田山塊 白根沢から俎岩スラブを巡る
2023.6.17〜18
下田山塊の深くに眠る白磁のスラブ’俎岩’ 四方を藪山と険しい沢に囲まれたそのスラブは容易に近づくことはできず、一部の下田フリークに残雪期の雪渓利用で登られているのみで記録は非常に乏しい。
自分もその存在は知っていて、航空写真からでもわかるスラブの明らかな美しさに心を惹かれていた。
今回は“パックラフト×沢登り”を精力的に実践し、本州最大の秘境の毛猛山塊や村杉半島に季節問わず足跡を残す中澤さんに誘われて、秘められた俎岩スラブを訪ねる沢旅に出かけることになった。
俎岩スラブへは光来出川支流の峻渓である白根沢の左俣 内白根沢を遡行して取り付くルートを選択、俎岩を登攀後は反対側の石小屋沢スラブを下降する算段だ。
さて問題となるのは、光来出川までのアプローチ… 過去2回は笠堀湖右岸の湖岸道を使っているが、バックウォーターまで3時間くらいかかるし、とっても歩きづらくて全く気が乗らない…そもそもダムの天端は立ち入り禁止である。
ここで出るのがパックラフトである! 中澤さんからお借りして笠堀湖をパックラフトで縦断して省力しようという試みなわけだ!
6/17 5:40 2年ぶりの笠堀湖に到着… いや〜遠い 今自分は岩手県宮古市で仕事をしており、金曜の夜仕事終わりに宮古から仙台へ戻り、サクッと準備してそのまま三条へ向かったのだった。気が狂うほどの運転距離である
駐車場にある三頭の笠堀カモシカの像にご挨拶 いつだって彼らは下田への冒険を送り迎えしてくれる。
今回は天端を使って右岸へは渡らずに左岸に付けられた作業道を少し行き、適当な広い箇所でパックラフトを準備する。笠堀湖左岸に付けられた仕事道はヤマビルがひどく、わずかに歩いただけで大量の生息が確認できた。
パックラフトに関して全てが初めてなポムチムは膨らます作業にも少し手間取るが、なんとか形になった。そしていざ着水しパドルで漕ぐのだが…?
はて、ポツンと浮いたはいいが全く進まない。 ポムチムはパックラフトはもちろんのことボートの類一切の経験がなく、パドルを握るのも初めてなのです。
あひるボートで女の子と湖デートとかがボートデビューが良かったのに、なんでクソ汚い笠堀湖でヒルまみれでデビューしなきゃならんのだと一瞬震えたが、まぁ言っても仕方がなく進む他ない。
中澤さんにその場でちょっと教えてもらい、辛うじて進むようになった。 が、慣れないパドリングにすぐに両腕が疲弊 そして、右手の皮が剥けてしまうなど前途多難だ。パドリング中にどこかにくっついていたヒルにまとわり付かれたり、カモシカの腐乱死体を避けたりなどイベントも多いが、2時間はかからずに笠堀川のバックウォーターへ着いた。
パックラフトは想像よりもずっと難しく、いきなりの実践は難儀するものだった。そもそもポムチムには致命的にパドリングのセンスがない、普通であればもう少しはまともだろうと思う。。
さて、2年ぶりの笠堀川だが。。あらま〜随分と増水している 過去2回の水量とは明らかに様子が違う 昨日の30mmの降雨が影響しているようだ。 30mm程度ならなんの影響もないだろうと高をくくっていたが、大誤算。 この水量では光来出川下部ゴルジュの遡行は困難だろう。
予定では、大川出合い近くまでパックラフトでいくつもりだったが、最初の淵で手詰まりになってしまったので右岸のウルイサドリを使うことにした。
ウルイサドリは、笠堀川右岸に付けられているかつての仕事道で、ゼンマイ採りや山師が使っていた道。20年前くらいまではウルイサドリを使ったアプローチで光来出川へ入渓するのが主流だったようだが、近年ではバックウォーター付近から早々に入渓するのがスタンダードなためこの道は忘れ去られ、今では荒れるに任すのみだ
さて、そんな古の道が残っているのかというと…意外と明瞭に残っていた! 特にスラブの横断区間については鎖や目印も現存している。大川との出合を見下ろし、そこからは不明瞭になりつつある道を辿る。 下降予定の石小屋沢で喉を潤し、木々の間から見えたコガ滝に絶句…!荒れ狂い白波だった淵に豹変している。巻いてよかった…
多少の藪に体力を奪われながらもなんとか下部ゴルジュの先まで進む、途中巨大な雪渓が本流を塞いでいるのを見た時には嫌な予感しかしなかったが、見なかったことにし落ち着いたところで光来出川に降り立った。
光来出川もここまでくれば増水の影響もなく遡行できる。すぐに白根丸渕 4年ぶりだが、増水の影響でやや濁り気味で渕もだいぶ埋まったようだ。 右壁を登るが意外と細かいホールドに程よく緊張する。
白根丸渕をすぎてすぐに右岸から入る白根沢 出合はとてつもなく貧相で大丈夫かいこれ…といった具合だが、進むとすぐに両岸スラブが発達する。程なくして巨大な岩が積み重なった12mのCS滝 滝の裏へ回り込むと洞窟状となっていて岩間から射す光を頼りに岩を登ると岩の上へ出れるようだが、体を思い切り乗り出す必要がある。
ここでロープを出して中澤さんがリード、カムが決まる 荷揚げし岩上のテラスで一息するが、滝上へは残置ボルトを使った人工か右手の被った岩間を登るかだが、中澤さんはフリーで右手の岩間を突破 続くポムチムは贅肉たっぷりで膨張した腹が詰まりそうになるもなんとか超えれた。中澤さんNICEリード!!
滝上は巨岩積み重なるゴーロだが、すぐに連瀑帯が始まる。この連瀑帯は非常に明るく快適。標高300mちょっとでこんなに素晴らしい渓相をもつ下田…やはり奥が深い!!
連瀑は続き、7m・10mと続く 手前の滝は泳いで右岸に取り付く 滝横を爽快に登れば気分は絶頂に。連瀑が終わるとすぐに内白根沢(左俣)、外白根沢(右俣)の出合に到着。水量は1:1だった。
進路は左俣の内白根沢だが、外白根沢を少し散策するとすぐに狭いゴルジュになり、一寸厳しそうなCS滝が塞いでいる。
この先もゴルジュが続いているようである。そして、進む内白根沢は出合から7mの滝となっているがホールド豊富で快適に直登する。
この内白根沢、実は遡行記録が調べうる限り存在せず、記録として確認できるのは35年前の高桑さんの下降した記録のみ。
これは最新の著書「渓の旅、いまむかし」に記載されている 記録によると内白根沢は「フラスコの底」と形容されるゴルジュを有し、遡行不可能とのことだが…
7m滝の上はとてもひらけた平和なナメ床がしばらく続く、フラスコの底などあるのだろうか? しかしこの平和は束の間であり、ゴルジュ状に。 3mの巨岩滝を左から越えると屈曲したゴルジュ地形に! 屈曲の先を見ると…なるほど!!確かにこれは「フラスコの底」だ!
覆いかぶさるようなハングした両岸を穿つ4m滝が確認でき、そのすぐ上にも滝の流れがわずかに見える。これはよっぽど遡行不可能であるため、戻って右岸のブッシュから巻いていく。大した巻にはならんだろうと思ったがここでも大誤算。
先には雪渓が広がり、屈曲部には明らかに状態の悪いスノーブロックが塞いでいる。…唖然 その状態の悪さに2人とも硬直したのちあれこれ話し合い、エスケープを確保しつつ進むことに。 際どいスラブトラバースをへてなんとか雪渓に乗る。恐る恐る左岸へ移り、崩壊したSBを超えるまで藪をトラバースした。意外とすんなり問題の箇所を処理できて安堵した。
この先も2つほどSBがあるものの容易に通過できた。 ここらですでに俎岩の取り付きが近いはずなので、幕営地を探す 狭い川原であり、微妙なポイントしかない中 6m滝の真横がいい具合になっていた。
装備を解いて、6m滝上を散策 滝上はミニゴルジュが続いている。 俎岩の取り付きは正直言ってどこかよくわからない。
沢からでは全体像が全く見えないのである。なんとなく、幕営地の下流の藪が取り付きに見える…明日はあそこから登ろう。
たっぷり焚き火を楽しんだが、夜は寒くてなんども目が覚める。その度にぼやけた星空が入り込んだ。
6/18 5:00 中澤さんは寒くて明け方早々に焚き火をしていたようだ。 適当に飯をかっこみ 6時前に出発。昨日目星をつけていたところから取り付く。藪はすぐにひらけてスラブになるものの50mも登るとその先は藪になっている。
どうやら取り付きを間違えているようだ。俎岩スラブと今いるスラブを隔てるリッジを乗越し、100m程度スラブをトラバーススすると、一気に上まで見渡すようになった。やっと俎岩スラブの本体にたどり着いた。
スラブはⅢ程度で全くもって快適 最後の100mで岩質が変わり、名の通り、まるで俎板のようにのっぺりとしたスラブになる。ここの景観は言葉にならないものがある。秘められたスラブを一歩一歩堪能して稜線に立てば下田・川内の山々が一望する、あぁなんて素晴らしいところでしょう。
稜線は綺麗な岩稜になっていて、とある高校の山岳部OB会報ではシルバーザッテルと呼ばれていた。 周囲の山々の景色も去ることながら、眼下の石小屋沢スラブも圧巻の規模だった。サイズは今登ってきた俎岩と同等 それとも石小屋沢のスラブを含めて俎岩なのだろうか。尾根続きの石小屋峰の天を衝く鋭鋒も随分と見栄えが良い。
傾斜の緩いところと藪を使って石小屋沢スラブを下降していく。ところどころで的確なルーファイが求められるが、予想した通りに歩いて下れる緩いスラブが広がっている。 雪崩による縞状模様が非常に美しく、もっこりとした地形は室谷川の桃尻スラブの規模を大きくしたような感じだろうか。
この縞模様はスラブの上に乗った礫が雪崩とともに落ちる時に岩を削ってついたものだという中澤さん なるほど間違いない。 自然の芸術に酔いしれテクテクと下っていくうちに、とうとうスラブも終わりに。
沢形を下降すると1箇所明らかな8m程度の滝があり、懸垂下降をした。その後は薄い雪渓を潜るなどして石小屋沢を下降するがヌメリがある以外特に何もなく、下降沢としては最適解だった。
往路に使ったウルイサドリに合流し、帰りは平水に戻った笠堀川をプカリと下っていく。
パックラフトのデポ地で回収し、ダム湖をパドリングするもやはり致命的にセンスがないためか、中澤さんとの距離はみるみる開いていくし、1mはあろうかという巨大鯉が大量にまとわりついて来て爆笑。そして泣きっ面に蜂じゃないが、湖上では逆風が強く、思い切り漕いでも風に押し戻される…
ポムチムは本気の恐怖を感じたので必死に進みなんとか丘へ上陸。全面パックラフトを諦めて、湖岸を歩けるところは歩いて、どうしようもないところだけパックラフトを利用した。それでも早くてバックウォーターから1時間少しでダム堤体へ帰還!!
タオルがつかなくなったいい湯らていで整って、飯は近くの八木茶屋で山塩ラーメン さっぱりしていて美味い
・所感・
久々にじんわりくるような沢旅ができて感無量。下田川内はいつだって心に残る沢経験をさせてくれます。今回初めてパックラフトに乗れたし、記録少ない内白根沢や秘境の俎岩のスラブなど盛りだくさんの内容にしばらく余韻がありました。
中澤さん、ありがとうございます!! パックラフトは若干トラウマだけど、余裕ができたら購入検討します…!