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2021-11-06

謎の大岩壁「八人岩」ドローン調査

2021.11.6

会越国境の山域の特徴として新生代の火山岩の露岩が雪食作用によって発達し、随所に雪崩の走路となるスラブ(アバランチシュート)が形成されていることが挙げられる。 特に顕著なのは御神楽岳東面の湯沢奥壁を代表とする巨大スラブ帯だが、特徴的な地形は実は色々なところにみられ、将軍夫人の言い伝えが残る御前ヶ遊窟なども実に興味深い地形を呈する。

そんな中、我々が興味を持ったのが柴倉川流域の支流、西沢の上流左岸にある「八人岩」という岩壁だった。

八人岩は菅倉山950.8mの南東面から東面にかけて西沢沿いにグルリと回り込むように形成されている、グーグルアースでも確認できるが、どうやらとても大きな岩壁のようだ

八人岩は、既往の山行資料にも僅な情報が残されており、その存在は地元会津の岳人にもマイナーながら知られており山岳会の会報などにもちょこっと触れられているようだ。

しかしながらこの八人岩の全景というか、概念がはっきりと視覚で確認できるような資料は皆無に等しく、地理院地図にもしっかり記されていながらその存在をはっきりと確かめようとするには情報不足であり、自分の目で直接見に行く他ないように思っていた。

今回は、東北電力の送電線巡視路を歩き、対岸の尾根から直接眺める他、ドローンで全景や細部の形状を確かめるという目的に留まったが、存在すら忘れ去られた低山に眠る大岩壁は想像以上のスケールと、摩訶不思議な地形を残した大変興味深いものだった。

計画としては車2台で1台を上田ダム横にデポし、もう1台で柴倉集落へ向かって巡視路を歩き通すというものになった。

車が2台必要だし、回すのも結構な手間だが、晩秋のハイキングとしてみてもとっても楽しいのでオススメします

巡視路の起点近くにある管理小屋
柴倉川はすでに初冬の様相

柴倉集落から管理用道路を1時間ほど歩く、周辺の山々はすでに最盛を過ぎた紅葉が最後の彩りを残し、季節が秋から冬に移り変わることを伝えている。

柴倉川へ降りると以前来た初夏とは違ってとても澄んだ清流がちょろちょろと流れている。

柴倉川を対岸へ渡り、稜線上へ続く巡視路を登っていく。 この辺りはまだ紅葉が最盛のタイミングで黄緑色に色づいた広葉樹のトンネルの中を歩いていく。

秋も終わり
柴倉川と西沢の中間尾根の稜線を目指す
対岸から望む菅倉山と八人岩
思った通り、樹木に遮られて全景は望めない

息絶え絶えになりながら稜線へつき、歩きやすい巡視路を登っていくと次第に視界がひらけ、大きな鉄塔のところに腰を下ろすと右手にはお目当の八人岩が西沢にそって屏風状に繋がっていることがわかる。

地形は非常に複雑怪奇で、東面側はまるでカッパドキアのような岩峰群が屹立し、上部は半三角錐状のスラブとなっていることがわかる。 ある程度の様子は目視でもわかるが、より詳しく確認したい我々はドローンを早速飛ばして、一体どうなってるのか手元の画面を注視した。

東側から見た八人岩全景
南側部分から空撮

東側の岩峰群も特異だが、目視だと死角気味の南面はさらに異質であり、沢に接する下部は樹林と傾斜の強いスラブ壁、中間は部分的に垂直以上となった高差80〜150mのフェース、上部は傾斜50°程度のスラブが100m場所によっては200mほど続く 複雑で立体的な岩壁であることがわかった。

以下からドローン写真空撮を貼っていく。 まずは東面の岩峰部付近の空撮。

右のピークが菅倉山 左が沼ノ峠山
奇怪な無数の岩峰が連なる。これが「八人岩」の所以か
和製カッパドキアといったところか
西沢の屈曲部は錐状の岩壁 上部は草の生えたスラブ

東面は前述の通り、無数の岩峰がニョキニョキと連なっている。特徴的な侵食として下部から頂部手前までは白く風化していて、頂部はくびれた笠状になっているものが多い。 岩峰は大小20〜50mほどのものがあると思われ、天然記念物にしてもいいような貴重な地形である。

続いて屈曲した先の南面方向の空撮。

南面の全景 垂壁とスラブ そして…
垂壁はスパッと切れ落ちている

南面は垂壁と上部のスラブからなり、その規模は周辺でも類を見ないものだろう。友人はまるで石切り場のようといっていたが、無論こんな奥地かつ岩壁の中腹に石切り場が作れるはずもなく、天然の造形なのだが 確かにまるで人工的に削ったような垂壁の姿に驚愕せざるを得ない。

写真で見る限り基部には洞穴状になった大きな穴?もみられる。垂壁はドローンの高度計や樹木との比較から場所によって100m以上はあると考えられる。

八人岩の威容
直接肉眼で目の前で見てみたいが
南面巨大垂壁部
垂壁左方には逆S字状のチムニーもある
南面全景を引きで撮る
巨大亀裂

西沢の上流方向には巨大なチムニーのような「亀裂」が見られる。これは大規模な岩盤崩壊によってできた亀裂なのか、はたまた侵食によるものなのか、確実な推量をすることは叶わないが、よく見ると亀裂を挟んだ上下の岩盤がまるでパズルのように合致しそうな抉れ方をしているのを見る限り、岩盤崩壊による亀裂ではないかと考えられる。

この大きな亀裂については、地理院地図にもこれを示唆したような地形が記されていて、斜面の中腹に斜上する崖マークが向かい合っているような記載がある。 ここまで細かく地形を抑えていることに日本の測量技術を賞賛せざるを得ない。

そして亀裂の深さは50〜80mほどあるのではないか。いったい内部はどんなことになっているのだろうか。。。

亀裂の底まではよく見えなかった
沼越峠で休憩 飯豊はすでに冬の様相

八人岩は思った以上に複雑で芸術的で美しい岩壁だった。より詳しく、いつかは西沢から直接確認して、自分の及ぶ範囲であればルートを検討してみたいものだが、ある種の神聖的なものすら感じてしまうし、見る限り簡単には登れるようなところはないように見える。

まずアプローチでかなりの時間がかかるし、自分の調べた範囲ではこの八人岩を登ったという登攀記録もない。そんな岩に自分は足を踏み入れることは叶わないかもしれない。

おそらくは未登、未踏であろうこの大岸壁は今後も人々の関心になる事もなく、登山家も存在すら知る事なくひっそりと佇んでいる事だろう。

一通りの撮影を終えたら、沼越峠を目指して明瞭な巡視路を進む。 険しい山に建造された高圧電線を見ると人々の電力供給のために作り上げた熱意と作業者達の苦労が見えてくる。

ハイキングとしても楽しい
福島県側へ国境をこえ

会越国境となる沼越峠は小さな石柱がポツンとあるだけで、あとは何もない。 高圧電線の送電音か、無機質な低い音と、風が落葉を促し舞い落ちる音のみが聞こえる。 ここで飯を食って上田ダム方面を目指す。

福島側は非常になだらかな尾根が続き、綺麗な管理小屋もあったり、刈り払いも行き届いていてとても快適に下れる。

なだらかな尾根道が続く
上田ダムへ向かって下る

なだらかな巡視路は上田ダムに向かって最後は一気に急降下する。ザレた急斜面は歩きにくく地味にきつい。

最後は巡視路入り口のつり橋を渡れば間も無くデポした車が見えてきた。

今日は時間があるので、道の駅金山でかぼちゃアイスを食べて、大塩温泉で入浴(やすくて最高!)、飯はひょっとこ亭でラーメンにした。

ひょっとこ亭のラーメンは、只見川をイメージして創作した霧幻峡ラーメンや金山町の特産を利用した赤かぼちゃラーメン、名物ゴロチャーラーメンなど沢山の種類がある。周辺は全く飲食店がないので貴重だし、味も美味しいので是非いってみていただきたい! 猛プッシュしときます。

今回は八人岩の概要と地形条件の確認に留まったが、いつかは直接触れて、まじかに眺めたい それは本当に美しい大岩壁だった。

おそらく、マイナー志向のクライマーであっても、この岩壁の存在を知る人はまずいないだろうし、こんなブログを見る可能性もほぼゼロだろうし、永劫語られることはないと思う。この八人岩はクライマーの初登だの何だのという意志に晒される事なく、そっと静かに人々に存在を忘れ去られることが相応しいような気がするのです。

M氏、今回もありがとうございました。

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