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2021-05-02

小楊子川左俣遡行・大川下降① 〜驚異のスケール小楊子川本流〜

2021.5.2-5.6

前日談

田代川を午前中に終えたので、ゆっくりご飯を食べて島を1周しがてら今旅の本命である小楊子川の様子を見に行った。

お昼時に安房付近ではバケツをひっくり返したような大雨が長いこと降っていたので、また増水してダメかな〜と思ったが

橋についてびっくらぽん 川は増水していないどころか初日に見た時の半分位の水量に落ち着いている。

おお〜これなら明日から行けるぞ!と歓喜 天気も明日から3日間は持ちそうだ、4日目に大雨予報だが小屋で停滞する段取りなので問題なし

とうとう、我々が今回屋久島へ来た最大の目的であった小楊子川の遡行が明日から始まる。

小楊子川は昨年、安房川北沢右俣遡行後に下降しようとしたが、天気や様々な問題から諦めた沢だった。

今年こそは何が何でもいきたいと、そう思いながらも島の天気に翻弄されていたがようやく絶好の機会を得た。

明日からが楽しみでしょうがない、小楊子川にいける。そう考えるだけで心臓がばくばくする 緊張と期待で胸がいっぱいです。

一般サラリーマンとOLの僕らは目的の山行をこなせる機会が限られている。今回長い連休を頂いていて遡行の機会をモノにできたのは天からの思し召し

精一杯楽しんでいきましょう!

前置き

小楊子川は島の南西部にある最後の集落「栗生(くりお)」に流れる栗生川の本流 栗生川は河口から数100mで黒味川と小楊子川に別れ水量としては圧倒的に小楊子川の方が多い。奥岳(屋久島中心部の1700〜1900m級の山々の総称)から流れ出た小楊子川は凄まじい河床勾配で流下し、度々起こる出水から侵食を受け非常に深い渓谷を形成する。

その険しさは宮之浦川・瀬切川とともに「屋久島三大険谷」なるものに数えられる、遡行自体の難度は宮之浦川より易しいとされるものの流域面積・遡行距離・水量・スケールは圧倒的であり、屋久島最大の遡行対象河川であることは間違いない。

小楊子川の特筆すべき点は何も険しさだけでなく、その環境こそが日本でもごく限られた貴重なものというところ。

上図は屋久島の地域区分を示したものだが、島全体の約2割がユネスコ世界自然遺産に登録されている。そのうちの極僅かに小楊子川の流域だけが「原生自然環境保全地域」という日本国でも極めて貴重かつ重要な自然保全地域に指定されている。

上図の3区分について簡単にまとめると下に示す表の通りである。

原生自然環境保全地域とはまさに原始の自然を今に残す、日本国の至宝ともいうべき地域なのだ。 その希少性は自然豊かな日本国でも僅かに5箇所

①遠音別岳地区(北海道)②十勝川源流地区(北海道)③南硫黄島(東京都)④大井川源流リンチョウ沢付近(静岡県)⑤屋久島花山地区小楊子川流域

これらの指定には明確な根拠があり、世界的に見ても希少性の高い植生や生態系を有していることが前提である。

そして5地域の中でも世界遺産であり重厚な沢登りが楽しめるのは小楊子川だけである。簡単に言えば、小楊子川は日本でもオンリーワンの沢だって事。

5.2 小楊子林道〜二俣手前まで

前談がめちゃめちゃ長くてすみません。ここから初日の内容です。

小楊子林道は概ね良好なダートが続くが、下山時に大川を下降して戻ることを考えると奥の方まで進むよりも手前側に駐車しといたほうがいいと考えた。計画では大川と小楊子川を分ける尾根の最低鞍部から戻ることを想定して駐車地を選んだ。

林道からは1時間半ぐらいの歩きで終点付近まで行き、緩い斜面を下って入渓した。

初日の今日はco790の二俣までが目標だ。

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林道途中で見つけたハンミョウ 本州でも珍しくない虫だが色がとても綺麗。

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7時ごろから林道を歩き始め、8時半小楊子川へ入渓 早速豊かな水量と巨岩が迎える。まさに大河という印象を強く受ける。

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右岸に100mを超えるスラブ壁を形成し、川は巨大なプールとなっている。左岸側は普通の河原なので泳ぎなどはないがこのスケール感伝わるだろうか

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振り返ってスラブ壁を見返す。スラブ壁も見事なのだが、強烈なのは一つ一つの岩のデカさだ。屋久島の沢に行ったことがある人なら分かると思うけれど、何が辛いって巨岩帯のゴーロ歩きが一番シンドイのだ。半端でない大きさの巨岩がゴロゴロひしめいているのでルーファイはもとより飛び石も慎重さを要求され、空身→荷揚げなんか当然のように連発する。

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一つ一つの淵も巨大 ここは、左手の薄いバンドから小さく巻いた。

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co430の屈曲部に位置する2段の滝 事前情報では右から大巻きだったが、M氏が泳いで右壁のスラブに取り付いた。

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極めてヌメりが強いのでたわしで慎重にヌメりを落として超えていった。ウナギ以下の登攀力である筆者はゴボウで超えた。

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問題の上段 ショルダーでM氏が滝上へ突破することに成功したが、ここは地形的にどうしても後続が突破しずらい。

方法はいくらでもあると思うのだが、自分の能力では限界があり2時間近く苦労した末、諦めて下段を降りて巻き直すことに。

大高巻きになるかと思いきや、左岸から樹林帯に入ると10分とかからずに簡単に巻けた。この時間ロスは後々響いてきそうだ…

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2段滝の上部も大きな地形の遡行が続き、体力を容赦なく奪っていく。 おまけに時折強い雨も降って来たもんだ。

本日の核心部となる「コケシスラブ」の通過はどうなることやら

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巨岩・淵・滝と交互に連続するが、徐々に景色を楽しむ余裕がなくなるほど疲弊し始める。

ただでさえキツイってのに4泊分の荷物を担いでいるわけだ、食糧なんかは6日分ぐらい背負っている。いつまで続くのか先の見えない巨岩地獄に音を上げてしまう。

目の前に現れたのは巨大な滝壺を持つ20mのスライダースラブ滝 ここでしばし休憩して、息を整える。

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一つ一つのスケール感はこれまで行って来た沢とはまるで別物である。

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意味不明なデカさの岩がその辺にゴロゴロ転がっている。想像以上の消耗に焦りながらも進んでいくが、時間的に二俣までは難しいことは想像できた。

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名所の一つ「桃太郎岩」巨大な花崗岩の岩がぱっくりと中心で割れている 命名したのは「熊本ヤブコギマーズ」なる屋久島遡行のパイオニアたちらしい。

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このデカさ 伝わるだろうか…

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奥にはとうとうco630のコケシスラブが見えて来た。

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コケシスラブ前の淵 核心部を前に豪雨に見舞われテンションはMAX低くなる この淵は右岸スラブから超えたが、進むに従いスラブは急になり濡れていてビビりまくった。

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圧巻のコケシスラブ コケシというよりぱっと見はチンポに近いのでチンポスラブのほうがしっくりくる。ズルムケスラブとかでも良いな。

高さは100m近いのだろうか、見上げると首が痛くなるほどだった。

そのチンポだかコケシだかのスラブの基部には巨大なプールと割れたCSが行く手を遮っている 幸いプールは右岸のバンドからパスでき、泳ぐことはなかった。

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ここの突破が二俣より下流では核心部であり、巻いた記録もあるがどうせならとM氏に先行を託して突撃してみた。

まずはCSの割れ目から詰まった石の隙間をショルダーで通過し中間部へ、そこから岩の上へはカムを使ったA1で抜ける ひっかかった岩に古い残置スリングがあったが、過去の記録に記載のある残置ボルト類は皆無だった。

CSの割れ目には岩が多く詰まっていて、いずれは割れ目が塞がり登れなくなってしまうかもしれない。

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CSの上部も簡単ということは全くなく、太い流れを渡渉したり、しくじったら怪我では済まない飛び石があった。

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コケシスラブの基部 デカすぎてコンデジでは全景が入らない。

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最後は左岸側の流路を飛び越えて終わりだが、水量が多い場合ここの通過は非常に危険であり、実際CSを突破しながらもここの飛び越えで引き返して巻いている記録もあった。その文体からはどういう状況かわからなかったが、現場を見て納得 水量が多い場合は最初から巻いたほうが確実だろう。

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コケシスラブをなんとか通過した先にはすぐこんな景色が… 思わず笑ってしまうほどでかいCS  特に名前はないようだが、GANTZの黒い球に似ているから内輪でGANTZ岩と命名した。

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それにしてもこの岩は半端ではない大きさだ、コケシスラブを高巻いた場合、この上流に降りてくるのでこの岩を見ることはできない。

コケシの突破には苦労したが、この景色が見れて大満足だ。

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GANTZ岩の通過もなかなか難しく、左岸の傾斜の強い泥壁からM氏が空身で突破したが 自分には紐が垂れてても厳しいところで 体力の限界を感じて来た。

時刻も16時を過ぎていて、もうヘトヘト 二俣まではまだ1kmくらいあるけど幕営できるところを早々に探そうということになった。

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幕営地はなかなか見つからず、3段15mほどの連瀑に入ってしまった。ここは左岸のスラブをラバーソールのフリクションで突破。

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中間には錆びたリングボルトがあった。

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時刻は17時を回ってしまった、二俣までは残り500mぐらいだろうか co730付近の杉の大木が生えるインゼルになんとかテントを張れそうな巨岩を発見。

目標の二俣までは届かなかったが、行程には支障がない範囲まで進むことができた。何より入渓してから全ての川の状況を確認しながら進めたのでそれは嬉しかった。

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斜めった岩で快適ではないけれど、腹一杯飯を食った後寝転がった先には一面の星空があった。きっとこの沢旅は成功するねと今後の予定を確認しシュラフに潜った。

小楊子川初日から半端ない内容でした。1日で3日分くらいのボリューム感で流石は屋久島の大渓谷 続きは②で報告します。

M氏お疲れ様でした。

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